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2023年08月の記事は以下のとおりです。

ギターの糸巻き(ペグ)

ギターの糸巻きは、最近はペグと呼ばれるようです。

中華製や台湾製の安価なものは千円ぐらいからありますが、使ってみたところ、見た目は派手でも歯車が小さく、歯車のかみ合わせに車のハンドル並みに遊びがあって音合わせの精度が悪く、さらに楽器の響きにジャリジャリと濁った雑音が混じるのが気になりました。

日本製GITOHの糸巻きは値段により様々ですが、1万円程度の安価な製品でも音合わせにあまり苦労しないように感じてます。GOTOH製品には制度の高いラインアップもあり、ピッチの微妙な調整が楽で音にも悪い影響が少ない製品を選ぶことができます。定番製品ですが、まぁ、お値段相応でしょうね。

※画像を新しいタブで開くと拡大図です。

高級な糸巻きで良く知られているのはロジャース製で、ハンドル部分に白蝶貝が使われておりキラキラと光ります。歯車の遊び無くなめらかに回転し、何よりもしっかりと共振するので音が良いです。最高級のハウザースタイルなどは20万円ぐらいの値段になったりします。精度を求める手作りですから安いロジャースでも値段が10万円程度以上と高価です。

なお糸巻きの軸間は通常35mm、ローラーの太さは10mmです。これら糸巻きの数値は、メーカーにより異なったりするので、取り替え時にはビス間の距離も含め確認してから購入します。糸巻きの故障は全部が一斉に壊れるのではなく、樹脂製のローラだけが割れたり、歯車だけが摩耗したりですから、高価な糸巻きの故障時には、部品販売を確認すると良いでしょう。

それから、組立時に糸巻き基盤プレートとギターヘッド木部の接点に隙間があると、雑音が混じったり響きが悪なったりするので、注意してピッタリと接地させるように組みます。

糸巻きのギア部分の潤滑剤は液状のものを避け、グリスなど固形油脂を使います。弦交換のときに確認して、乾燥しているようなら爪楊枝を使ってグリスを足しておけば良いです。その時に、はみ出たグリスはティッシュペーパーで拭き取っておきます。グリスは個人的には「seiko シリコングリス」を半世紀ぐらい使ってます。自分の数台のギター以外に生徒さんの糸巻きにも使い続けてまだ無くなりませんから、一個で一生ずっと使えます。 

もしもローラーがギターヘッドに空けられている穴の内側との接触でギシギシ雑音を発するときは蝋を使ってみると動きがスムーズになります。糸巻きローラーの直径が1センチぐらいですから、直径1センチ強ぐらいの蝋燭が使いやすいです。

タレガ「前奏曲5番」

タレガ「前奏曲5番」の楽譜です:
https://imslp.org/wiki/Prelude_No.5_(T%C3%A1rrega%2C_Francisco)

タレガは典型的なロマン派です。小品ながら美しいプレリュードを多く残しており、その5番目の曲がこの曲です。

https://www.youtube.com/watch?v=-aBkSvyBdg4

この曲は難しくないので多くの奏者が弾いてます。YouTubeで検索すると猫も杓子もという感じです。残念ながら日本人は全滅。その中でもセゴビアを凌ぐ録音はたぶん無いと思われます。⇒ セゴビアの録音mp3

それにしても巨匠セゴビアは自由ですね。オリジナルの楽譜からのリズム変更が少し気になります。そういう意味ではタレガのセゴビア編曲版です。

ワルカーさんの録音があれば、香り高いロマン派様式できっちりと弾いているのですが、残念ながら見つかりません。物覚えの悪いボクの記憶に残るのみです。

そう言えば、いつだったかオーストリア国営放送の番組で教育者としてのワルカーさんがテーマになったことがありました。日本流に言えば人間国宝に当たる彼女自身が参加し、様々な分野の専門家が集まり円卓を囲んでの意見交換です。テレビで難しいことを延々と論じているのを見ても、自分の師匠が演奏家だと思っていた弟子からすると、面倒なことはどうでも良いと感じたものでした。

誰が言ったのか失念しましたが、「演奏は自分に誠実であること、教育は夢を授けること」とは言い得て妙です。先生は生徒に与える曲を弾くことができなければダメですね。

 

それから、曲は違いますがYouTubeでタレガの自演を聴くことができます。

https://www.youtube.com/watch?v=7B40vZOyoPs

動画中トレモロ奏法の美しい指の動きも確認できます。1899年のものですから無声映画と円筒式蓄音機です。つまり音と絵は別々の記録です。もちろん A=440hz の国際基準が決められる半世紀以上も前です。第一次世界大戦前のフランスとスペインで最も一般的だった音高が A=435hz、440hz からすると半音低いわけです。

誰でも知っていることながら、タレガの楽器がトーレスだったことは、ここで再確認しておきますね。作曲家&演奏家&教育者タレガと楽器制作家トーレスの登場が近代ギターの黎明です。

ギターのコマとサドル

ギター本体だけでなく、コマとサドル、そして糸巻きで音が変わります。

昔は上駒下駒などと呼んだりしましたが、最近は糸巻き側の弦枕をサドル、表面版側の弦受けをコマと呼ぶそうです。 調整は数100分の1ミリ程度の精度が求められます。

コマとサドルは材質と形状、弦高が大きく響きに影響します。安価なものなら合成樹脂、よく使われるのは牛骨で、漂白されてない物やオイル漬けの製品の方が弦の滑りが良いそうです。高価な象牙(マンモス牙)が入手できれば、より良い音が期待でき、どっしりとした音が出るように感じます。

金属ナットはキンキンと甲高い響きになるようですが、反面しっかりとした感触がありそうです。ときには黒檀など木製も使われますが強度は大丈夫なのでしょうか。

象牙類以外のコマやサドルは安価なので、自分で削ってみるのも良いかも知れません。

コマの調整は数十回もすれば様子がわかってきます。合成樹脂のコマは驚くほど安いので、数十万円以上の楽器でなければ、自力で調整を試してみると楽器の理解に繋がると思います。

 なお、コマの高さを出すときに3弦だけピークを弦止め側にすることについては、以下を参照。音合わせが少し楽になります ⇒ https://naka-ku.com/index.php/view/16

サドル溝の調整は、太さの異なる極細の棒状ヤスリを使います。弦高は12フレットで測ります。1弦側を6弦側よりも1mm弱ぐらい低くすると良いようです。通常は6弦が3.5mmの弦高らしいです。

ハウザーさんは「弦高は低ければ低いほど良いが演奏技術が無いと音が潰れる」と話してました。

ロマン派とハンガリー音楽

先ずロマン派の流れから生まれた「民族主義」についてです。

ウィーンならウィンナーワルツやウィーン民謡、フランスならシャンソン、スペインならフラメンコ、フィンランドのシベリウスはフィンランディア、モルダウの曲で知られるスメタナの「わが祖国」、ドボルザーク「新世界より」など等を生み出すことになります。

北アメリカではネイティブアメリカンの根絶やしにより文化の復興が遅れ、祖国を失った人々の定着を待ってジャズやミュージカルが起きるのを待つことになったようです。

余談ながら、ミュージカルがヒットラーから逃れたウィーンのユダヤ系オペレッタ作家の渡米の影響を受けたことはあまり知られてないようです。というか、この話題はタブーですね。

https://youtu.be/nZhY1KEKFbM
 

さて、上記のYouTubeはコダーイやバルトークが円筒式蓄音機で集めたハンガリー民族音楽よりも後の時代の聞きやすい収録を選びました。このような民族音楽の追求と研究もロマン派の流れからの影響と考えられます。

ヨーロッパ唯一のアジア民族とも言えるマジャール民族は、ルネサンス時代のマーチャーシュ王の頃を最後に、民族自治を失ってしまい、19世紀後半のロマン派時代はウィーンを本拠地とするハプスブルク家の統治が続いてました。

もちろんドージャ(1470-1514)やラコッツィ(1676-1735)、コシュート(1802-1894)による民族独立の動きもありましたが、ハプスブルク支配の壁は厚く、弾圧と鎮圧の繰り返しでした。

 

ハンガリー建国は7つの部族を率いてきたアルパードによるとされています。896年のことですから日本は平安時代でした。民族統一は1000年頃のことで、キリスト教改宗でパッサウのシュテファン寺院で洗礼を受け、シュテファンと名乗るようになったイシュトヴァン王によります。

ハンガリー画家ムンカーチ「荒野の嵐1867」

マジャール族がアジアからの移動民族だったことは、蒙古斑だけでなく言語学においても証明されてます。

アブミを使って馬を操ることのできたマジャール騎馬軍団はレヒフェルトの戦い(955)でドイツのオットー大帝に敗れるまで無敵で、ドイツからオランダ方向、さらにパリ(シテ島時代)を滅ぼし、ローマを蹂躙したことは、それぞれの国の歴史であまり触れたくない事実らしいです。ウィーンにハプスブルクが君臨する数百年前のことでした。

当時、ヨーロッパ人がマジャールを見たときには殺され滅ぼされたことから、ヨーロッパ史ではゲルマン民族同様に野蛮な民族として扱われることが多いようです。

当初はどこの誰か分からなかったことから、黒海の北、現在のウクライナあたりの勇猛果敢な「10本の矢」と言われた民族だと考えられたそうです。

マジャールを10本の矢、つまりオン・オグール ⇒ オノグル ⇒ ウンガル、そしてハンガリと呼ぶようになったことは、歴史学者には良く知られた話のようです。 

19世紀後半のハンガリー画家ムンカーチ
ハンガリー平野のマジャール民族。ムンカチの絵

音楽においてもロマン派の民族主義の影響からハンガリー民族音楽についての本格的な研究が始まります。もちろんバルトークとコダーイです。ちょうど円筒式蓄音機の発明もあり、今ではYouTubeでも聞くことができます。

ハンガリーにはエジプシャンと言われたジプシー民族がヨーロッパで一番多いことから、ハンガリー民衆音楽にはジプシー音楽の影響が見られます。ジプシーは(さ迷い歩く)ウォーカー、ドイツ語なら(ヴァルカー)ワルカー等と呼ばれ、手先の器用さを活かしたミュージシャンや鍛冶屋や手工芸職人が多く居たことも知られてます。

ジプシーは、日本で包丁研ぎが村々を回って来るのを待ったのと同じように、ヨーロッパでも重宝されていたようです。特に領主たちにとっては日々の生活に小さな楽しみをもたらした軽業師やミュージシャン、それから刀鍛冶は権力の維持に必須でした。これが弱小民族のジプシーが存続した理由だったと考えられます。

ロマン派時代にはアジアの異国情緒を求めた結果、ウィーンで活躍し楽友協会の理事を務めたブラームスの「ハンガリー舞曲」だけでなく、ヨーロッパに定住したほぼ唯一のアジア系民族ハンガリー音楽に注目が集まります。

ハンガリー平原の井戸(マルコー・カーロイ1858)

ギターにもハンガリー風の練習曲が見られますが、農耕民族には見られない騎馬民族の3拍子であったり、3千キロもの距離を流れるドナウ川を挟んで広がるヨーロッパ最大のハンガリー平野地帯、大平原や少平原を移動するマジャール族気質が感じられるのは興味深いです。

ロマン派の影響ですから、馬で移動する人々の三角テントでの生活、ハンガリーのパンノニア気候は温暖で乾燥した風、その熱風対策と乗馬の都合から男も長いスカート、その白いスカートにはハンガリーの鮮やかな民族刺繍が施され、地平線の彼方まで平野が広がる景色の中で口ずさみ、かがり火を囲んで楽しんだのがハンガリー音楽の源泉です。

高崎守弘

ギター表面版の材質

ギターの表面版に使われるのはシダーかスプルースのどちらかです。便宜上シダーを杉、それに対してスプルースを松と呼ぶこともあります。

安価な楽器は全てシダーですが必ずしも音が悪いというわけではありません。シダーはスプルースよりも成長が早いので木材価格が安いだけです。鳴りが悪いのは制作コストを抑えている楽器が多いためでしょう。スプルースは最低価格帯のギターには見られないようです。鳴りの良いギターはどちらの材質でも制作可能で、良いものは良いです。


◆ Ceder/シダー

「シダー」というと「スギ」と訳されがちですが、ギターでよく使用されるのは「ウエスタンレッドシダー/western red cedar」でヒノキ科ネズコ属(クロベ属)の樹木をさします。

しかし、ヒノキ科にはその他に「スギ属」や「ヒノキ属」などもあり、これらも「シダー」と呼ばれますが、ギターに使われるのは「ネズコ属」です。日本のスギはスギ科スギ属で Japanese Cedar と呼ばれることから、Cedar=杉と混同され勝ちです。

多くのギターは表面版にシダーが使われます。スプルースの反応が遅いわけではありませんが、どちらかと言えば柔らかめの木材が撥弦反応の良さに影響しているように感じます。高性能LED懐中電灯で100m先をスポットで照らすような音質がスプルース、同じ高性能LED懐中電灯でも遠くを照射するのではなく広い範囲を照らすのがシダーというイメージです。

しっかりと作られてないシダー楽器が空虚なポコポコとした響きになったら寿命なのかも知れません。シダーの楽器を選ぶときは、作りのしっかりとした楽器の方が個人的にはお薦めです。

【科】 ヒノキ
【属】 ネズコ
【種類】 針葉樹
【別名】 ウエスタンレッドシダー
【産地】 ロッキー山脈北部、太平洋岸北西部
【気乾比重】 0.38
【強度】 2

 

◆ スプルース/Spruce

スプルースは北米からヨーロッパ、日本にも分布しています。色はシダーに比べて白っぽい見た目が特徴で、木目も淡い印象のものが多く見られます。ピアノの響板、バイオリンなどなど、ギター以外の楽器にも多く使用されてます。

スプルースには産地によって様々な名称が付けられます。

ギターでSpruceと言えば、ほとんどが北米、特にアラスカから南カリフォルニアに分布する「シトカ・スプルース」でしょう。この呼び名はアラスカのシトカ市に由来します。

スプルースは、シトカ・スプルースの他に少し軟質な北西アメリカ産の「イングルマン・スプルース」、それから、アメリカ北東部に分布し、戦前のアメリカ製ギターに使用されていたアディロンダック・スプルース(パワフルでクリアなサウンド傾向)など、ギターで使用されるスプルースは多岐にわたります。

スプルースは松と言われるだけあって、シダーのように真っ直ぐな木目の物ばかりではないようです。シダーよりも松脂が多く含まれ、木材の粘りと重さから鳴り難かったり、音の立ち上がりがシダーのように軽快では無いときもあります。

しっかりとしたタッチで鳴らさないと楽器からの音離れが悪いので、低温から高音までのバランスを自分でコントロールできないとスプルースの良さが発揮できないようです。つまり、制御されたタッチが身についているか、そうでなければ、楽器に教えられて身につけることになるのだろうと感じてます。

シダーが最初から軽快に響くのに比べて、スプルースの新作は音がこもるときが多いので、音を自分で作ってゆく必要があると感じてます。しかし良い楽器は最初から高音の音離れが良いことから購入時の判断基準になります。低音は時間とともに鳴り方が軽くなり楽器からの音離れも良くなる傾向が強いです。

【科】 マツ
【属】 トウヒ
【種類】 常緑針葉樹
【別名】 トウヒ
【産地】 北米、ヨーロッパ、日本
【気乾比重】 0.35~0.4
【強度】 3

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