美しきロスマリン
- 2021/11/30 11:01
- カテゴリー:音楽芸術
件名の「美しきロスマリン」という曲は、バイオリン教室の発表会でも取り上げられる程ポピュラーな曲ですから誰でも知っていると思います。この曲はバイオリンの巨匠フリッツ・クライスラー(Fritz Kreisler, 1875年2月2日ウィーン生 - 1962年1月29日ニューヨーク没)の小品で、幸いなことに作曲家当人の名演が残ってます。
録音は帝政崩壊後ですが、クライスラーが生まれ育ち、夢と希望の中で活躍したウィーンは、世紀末をも含む帝政末期の真っ只中でした。
10数カ国後の言語が混在した多民族国家ハプスブルク帝国の末期に、フランツ・ヨセフ皇帝の下で夢と現実の狭間で生きた古き良き時代の帝都ウィーンの沸き立つような薫りが感じられます。
https://youtu.be/dVWGfwPMrrg?si=0XXpnKkugJQfbfA4
クライスラーは、オーストリアの帝政時代から共和制、さらにナチス独裁という時代の流れの中で活躍した音楽家です。皇帝フランツ・ヨセフの時代を含むので、聴いていると沸き立つような「古き良き時代」のウィーンの薫りが伝わってきます。アシュケナジムだったことからオーストリアがドイツに併合されたときにアメリカに渡り没してます。
YouTubeに公開されている上記録音は1938年、ヒットラーがオーストリアを併合した年ですから、クライスラーがアメリカに渡る直前ですね。
https://www.youtube.com/watch?v=6un_YIawX-E
この録音はクライスラー編曲マスネ「タイス」です。ウィーン在住のクライスラーがアメリカで録音してます。古き良き時代の雰囲気が、ウィーン子達の努力でギリギリ残されていた1928年末のことでした。この直後1929年には世界恐慌、首相の暗殺、ドイツ併合、二次大戦と怒涛のごとく歴史が流れます。まさに「政治に無関心でも無関係ではいられない」という人々の宿命を感じます。
クライスラーは「音楽的に粗野」という理由でウィーンフィルの入団試験で落とされてますが、軍人でしたし、また学んだのがウィーン国立音大ではなくウィーン市立音大でした。ウィーン市立音大を10才で主席卒業、さらにパリ音楽院を12才で主席卒業してます。
クライスラーは、ウィーン市立音大でブルックナーから作曲を学んでいるので、小品にもスケールの大きさが感じられるのは、その影響なのかも知れません。
パリ音楽院でも学んでますから、この録音の8年前のフランスのラベル(1875年3月7日 - 1937年12月28日)自身の演奏を聴くと、拍の刻みの厳しさから曖昧なところが無いという意味で、同じような印象を受けます。
https://www.youtube.com/watch?v=oT42-c03vnI
作者であるラベル自身の指揮による1930年初演のボレロです。ごまかしの無い、類稀なる名演です。巨匠の精神力にたじろがず最後まで集中して聴くのは簡単ではありません。
美しきロスマリン(Schön Rosmarin)は、フリッツ・クライスラー作曲のヴァイオリンとピアノのための小作品。 4分の3拍子。ト長調。簡単な三部形式。著作権切れPDF楽譜(上から30ページ目、楽譜内のページ表記と異なる)